謎の航空機 オートジャイロ

この記事は東京大学航空宇宙工学科・航空宇宙工学専攻アドベントカレンダー 2日目の記事です。

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もう12月ですか、、ということで書いていきたいと思います。

まずはこの写真を見ていただきたい。

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AutoGyro Calidus


半分くらいの人は一見ヘリコプターだと思うであろう。しかしヘリコプターのように見えるが、どことなく違和感を感じるだろう。後部に謎のプロペラがついているし、ランディングギアがある、テイルローターがない……

そう、これが今回ご紹介する、オートジャイロと呼ばれる機体だ。

オートジャイロはジャイロプレーン、ジャイロコプターと呼称される回転翼機である。1923年にスペイン人のJuan de la Cierva氏が発明し、様々な改良が加えられてきたが基本的な形状は変化していない。

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当時の機体 Cierva C.6 レプリカ

前方のプロペラがエンジン動力で回転することにより推進力を得るのだが、上部のローターにはエンジンが接続しておらず、空転するのみなのだ。これはどういうことなのかというと、ローターが下部から風を受けることで風車のように回転し、その回転によってローター回転数を保ちつつ、揚力を得ている状態である。この状態はオートローテーションと呼ばれ、オートジャイロ以外にもエンジンが緊急停止した際のヘリコプターでも限定的に用いられる。これに対してオートジャイロは飛行中常にオートローテーションするのが特徴である。エンジンにより前方に推進することで翼が揚力を生み出し飛行するという点において、どちらかというとヘリコプターより固定翼機と似ていると言えるかもしれない。

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オートジャイロとヘリコプターの模式図[1]

 

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こんな感じで飛行する。大抵一人か二人乗りであり、現代の機体では後ろにプロペラが付いているpusherタイプが多い。操縦はプロペラスラストとラダーの他、上部ローターの回転軸の向きを左右あるいは前後に傾けることで行う。ヘリコプターのようにローターが可変ピッチとなっている訳ではなく、単純にローター推力線を傾けるだけなので構造が簡素である。

不遇な運命

一時は軍用商用を含めて様々な利用あるいは研究が為されたオートジャイロは、しかしながらオートジャイロは時代の趨勢に乗ずることができなかった。この理由として様々な意見が存在するが、一つ確実なのがヘリコプターの誕生であろう。

オートジャイロの誕生から10年ほどの時を経たのちに実用的なヘリコプターが現れたが、ヘリコプターと固定翼機のちょうど中間のような性質を持つオートジャイロは中途半端な存在となってしまった。航空機の発展と軍事利用は深い関係があるが、軍事利用を考えると固定翼機のように速度が出ず、ヘリコプターのように垂直離陸のできないオートジャイロが採用されないこと想像に難くない。それでも一部では軍事利用もなされており、旧日本軍もカ号観測機といった機体がある。

それでも、オートジャイロの技術を用いた新しい航空機の姿は模索され続けていた。その代表的な例が1957年のヘリコプターとオートジャイロ複合機であるフェアリーロートダインであろう。

 

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フェアリーロートダイン

このずんぐりとした機体は50人乗りであり、世界初のVTOL旅客機として開発され実際に飛行を成功させたが(かつてのVTOL=垂直離着陸機は開発段階でそもそもまともに飛行できないものも多かった)、激しい騒音と非経済性により一機のみ製作され実用化は達成できなかった。定常飛行時はオートジャイロとして運用し、垂直着陸時のみローター先端から圧縮空気を吹き出してローターを回転させ(tip jetと呼ばれる)ヘリコプターとして運用するという変態興味深い機体だったのだが。。

現状として、オートジャイロペイロードが小さく速度が遅いために大量輸送に向かないこと、また比較的短いながらも滑走路が必要なことからビジネス用途としては殆ど用いられたおらず、スポーツやレクリエーション用途に(ほぼ)限って使用されている。

マチュア航空機として

その後、オートジャイロはアマチュア自作航空機としての傾向を強めていく。オートジャイロは構造が簡素であるために比較的安価(多分100万円〜?)である。また日曜パイロットにとってコンパクトな機体形状は保管場所の面でも都合が良いだろう。固定翼機と比較して滑走距離も短いため、短い滑走路でも運用できる。戦後、簡素な機体としてBensen型オートジャイロが誕生し、完成度が高かったため広く普及した。

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Bensen B8

 

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また、こうした機体を参考にして自ら機体を制作し、実際に飛行する人々も現れた。こうして多くとは言わないが熱意ある人々を空へと導いてきた訳であるが、同時に幾許かの人間をより遠くの二度と戻ってこられない「おそら」へと誘ったこともまた事実である。航空愛好家の裾野が広いことは素晴らしいが、広すぎる裾野の一合目で離陸した自作航空機の運命は素晴らしいものだけではないだろう。

これに問題意識を持った英国当局は2000年前後に耐空性審査基準を整備すべくGlasgow大学のS.S.Houston教授と連携し、オートジャイロのハンドリング性能並びに安定性に関する評価を行った[2]。これによりオートジャイロの迎角静安定性を確保する上で推進用プロペラの推力線と重心の上下関係が非常に大切であることが認められた。

また、固定翼機における線形微小擾乱運動方程式と同様にオートジャイロに於いても線形近似がある程度成り立つことが実験的に示された[3]が、これは「勘」と「経験」により多くが成り立ってきたオートジャイロに関して定量的な運動解析を行ったという点において大きな進歩である。

力学的な運動モデルの構築が難しいこと、自由度の多さ(ブレードのフラッピング運動はヘリコプターと同じだが、ローター回転数に関してジャイロは直接制御できない自由度となる)、そもそも需要がないことにより比較的研究が進んでおらず、例えば固定翼機における安定微係数簡易概算法のようなものも確立されていない。

シンプルな構造をした機体であるが、「ローター回転数」というオートジャイロの飛行において最も大切な状態量が入力により直接制御できない、というある意味の不自由さに研究対象として興味を覚えてしまうのは筆者だけであろうか。。

 

次世代の機体

便利な日本語というものはあって、いつの間にか人口に膾炙してしまったが大抵の場合専門家に言わせれば唾棄すべき程の誤解に塗れた表現なのであろうが、所謂「空飛ぶ車」もそうであろう……という詰まらない話は措いておくにせよ、今回の場合に限りそうとしか言えないので使わせていただいた。こちらである。

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これはオランダのPAL-V社が開発しているPAL-V Libertyという機体であり、三輪バイクとオートジャイロが一体化した航空機である。ローターブレードは折りたたみ式となっており、飛行時に展開する。これはオートジャイロの取り回しの良さを活かした好例であり、地上走行を考えると固定翼機ではなかなか難しいであろう。ちなみに価格は5000万円程度であり、2019年に出荷開始予定らしい。
このように、単なるチープな回転翼機としてではなく、特有の取り回しの良さを生かして新たな機体が開発されることはジャイロ好きとしてとても喜ばしいし、今後の発展がまことに楽しみである。

 

まとめ

ジャイロ面白いね。

 

本当はオートローテーションの原理について詳しく書きたかったのだが、前置きが長くなってしまったので日を改めて書きます。

 


参考

[1] Development of the Autogiro: A Technical Perspective J. Gordon Leishman University of Maryland, College Park, Maryland 20742  

[2] S. S. Houston. Longitudinal stability of gyroplanes. The Aeronautical Journal,
Vol. 100, No. 991, pp. 1–6, January 1996.

[3] S.S.Houston.IdentificationofAutogyroLongitudinalStabilityandControlChar- acteristics. Journal of Guidance, Control, and Dynamics, Vol. 21, No. 3, pp. 391– 399, 1998.